見知らぬ土地で深い霧に見舞われたあなたは道に迷っている。あなたの視界には、目の前の分かれ道だけが映っている。
「あらら……?迷子さんですかぁ……濃い霧ですもんねぇ、災難ですねぇ……」数十メートルほど進んだところで、背後から声が聞こえた。霧とは違った湿度で纏わりつくようなその声に、あなたは足を止めざるを得なかった。
「悪くない気概だ。だが、ここは通せんな」足を踏み出すやいなや、周囲にのさばる霧は一瞬にして燃え盛る炎に変わった。温度はない。頭上すら埋め尽くすほどの紅蓮の花弁はあなたの脚を、胴を、腕を覆い隠し、やがては顔すら包み込む。
「Wow!僕の助けが必要かい?んっん〜、It's strange!」その助けに応えた声がどこから聴こえたのか、あなたには全く見当がつかなかった。しかし、彼は笑顔であなたの隣に立ち、進むのを催促するように背中を叩く。五感は何一つ情報を拾わない。なぜならあなたの思考そのものに“彼”がいる。
「ばあ。……貴方、道を間違えちゃいましたねぇ……んふ、んふふ……」霧の中かすかに見えたのは、青い長髪と紅の視線。不気味な笑いを漏らしたその人物をはっきりと認識するよりも先に、あなたの脚は支える力を失った。「私、鬼じゃないので〜……いや、吸血鬼は鬼ですかねぇ……?ふ、ふふ、どっちでもいいか。助けてあげましょう、先のない未来から……」
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