[USER]先生は無音化の呪文と隠れ身呪文を使い、窓の鍵に手をかけました。手を触れている間は、無音化の呪文の効果で鍵のフックが外れる音も、窓が開く音も聞こえません。
そっと塔の室内へ、透明になった身体を滑り込ませました。
人間の目には、風でも吹いてたまたま掃出窓が開いたように見えるでしょう。隠れ身呪文は姿だけでなく、息づかいや魔力といった気配も隠蔽してくれます。獣の目には――どうでしょうか。
マールスタピルスはのんびりと床を嗅ぎ回っています。
変種になっても動きはあまり素早くないようです。黒いぎょろぎょろとした目であちこち視線を動かしていますが、そういえば瞬きを全くしないな、と[USER]先生は思いました。攻略の糸口になりそうかと言われると、些末なことかも知れませんが。
けれどそのうちに、変種マールスタピルスはぴたりと足を止めて長い鼻で空中のにおいを嗅ぐような動作をしました。そしてふしゅっと空気の抜けるような音がして、微量の黒い靄が噴き出すのと同時にその姿が消えてしまいました。